「知っている言葉」はなぜ読みやすい? ―単語の“親しみやすさ”から考える読みの発達

今回は、単語の「親しみやすさ」と読みの関係に注目します。子どもがひらがな一文字を読めるようになっても、すべての単語を同じようにすらすら読めるわけではありません。よく知っている言葉は読みやすく、あまりなじみのない言葉になると読みづらくなることがあります。一人ひとりの頭の中にある“ことばの地図”にも目を向けながら、単語読みの発達とつまずき、そしてアセスメントや支援について考えてみましょう。(奥村)
川﨑・奥村・荻布 2026.08.27
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子どもは、文字と音を結びつけながら、少しずつさまざまな単語を読めるようになっていきます。しかし、一文字ずつ読めるようになったからといって、どんな単語でも同じようにすらすら読めるわけではありません。例えば、同じ4文字のひらがなで書かれていても、「ともだち」のように日常でよく見聞きする言葉と、あまりなじみのない言葉とでは、読みやすさが違います。文字数が同じでも、なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?

読むとき、私たちは書かれた文字を一文字ずつ音に変えているだけなのでしょうか。この記事では、私たちが行った研究や、これまでに報告されている代表的な研究を紹介しながら、「知っている言葉」がなぜ読みやすいのかをひも解き、そこから子どもの読みの発達やつまずき、アセスメントや支援について考えていきます。

一文字を読むことと、単語を読むこと

ひらがなは、基本的には一つの文字と一つの音との対応がわかりやすい文字です。「か」を見て「ka」、「め」を見て「me」と読むように、文字と音の対応を身につけることは、読みの発達を支える大切な土台です。しかし、「か」と「め」がそれぞれ読めることと、「かめ」という単語をすばやく読むことは、同じではありません。

私たちは単語を読むとき、いつも一文字ずつを独立して処理しているわけではありません。「えんぴつ」や「ともだち」のような読み慣れた単語では、文字と音の対応だけでなく、これまでに蓄えられてきた言葉としての情報も利用しています。ここでは、わかりやすく、このような読み方をまとまり読みと呼ぶことにします。単語の形を写真のように丸ごと覚えて読むという意味ではありません。読み慣れた単語では、「どんな文字で書かれているか」という文字の情報「どう読むか」という音の情報「どんな意味の言葉か」という意味の情報が頭の中で結びついて蓄えられています。こうした情報を一緒に利用できることで、一文字ずつの文字と音の対応だけに頼るよりも、単語を効率よく、すばやく読むことができます(Plaut, 1996)。

私たちの研究では、よく知られているひらがな単語を2文字、3文字、4文字と長くして比較しました。一般の小学校2〜3年生では、2文字と4文字の単語を比較すると、読むのにかかる時間や目の動きの回数は、およそ1.4倍に増える程度でした(奥村, 2010)。つまり、文字数が2倍になったからといって、読む負担までそのまま2倍になるわけではありません。このことから、小学校低学年の段階でも、よく知っている単語をまとまり読みを使って効率よく読んでいることがうかがえます。さらに年齢が上がるにつれて、まとまり読みをする力はより発達し、単語の読みもより速く、効率的になっていきます(小林ほか, 2010;三盃ほか, 2011)。

では、その「知っている」という程度は、どの単語でも同じなのでしょうか。ここで重要になるのが、今回の記事の中心となる親密度です。

単語によって親しみやすさは違う

ここで考えたいのが、単語の親しみやすさです。研究では、こうした言葉の親しみやすさを「親密度」という言葉で表すことがあります。親密度とは、その言葉が自分にとってどのくらい身近で、よく知っているものかを表しています。たとえば、「ともだち」と「おんじん」。どちらも4文字の日本語ですが、小学校低学年の子どもにとっては親しみやすさがかなり違うでしょう。「ともだち」は日常で何度も聞いたり使ったりする一方、「おんじん」は聞いたことはあっても意味が曖昧だったり、普段ほとんど使わなかったりする子どももいます。こうした言葉の身近さは、読むときにも関係します。子どもを対象にした研究では、話し言葉として知っている言葉ほど、その単語を文字で見たときにも読みやすいことが報告されています(Nation & Cocksey, 2009)。

私たちの研究でも、小学校2〜3年生に、すべて4文字にそろえた、よく知られている(親密度が高い)単語とあまり知られていない(親密度が低い)単語を読んでもらいました。その結果、単語の親密度が低くなるほど、単語の音読により時間がかかり、読んでいるときの目の動きも多くなるという違いがみられました(奥村ほか, 2010)。文字数が同じでも、その言葉についてすでにもっている知識が、単語を読むときの処理に関わっていることがわかります。ただし、言葉の知識は「知っている」「知らない」の二つにきれいに分かれるものではありません。「よく使う」「聞けば意味がわかる」「なんとなく知っている」「ほとんど知らない」など、その身近さには濃淡があります

そして、この親しみやすさは子どもによっても違います。同じ年代でも、どんな言葉を耳にしてきたか、どんな本を読んできたか、どんなことに興味をもってきたか、どのような文化や生活環境の中で過ごしてきたかによって、親しみのある言葉・よく知っている言葉は少しずつ異なります。ある子にとっては身近な単語でも、別の子にとってはほとんど出会ったことのない言葉かもしれません。では、こうした一人ひとりの言葉の発達の違いは、読みの発達やつまずきを考えるときに、どのように捉えればよいのでしょうか。

そのヒントになるのが、私たちが頭の中にもっている言葉の知識と、そのつながりです。

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