「勉強につまずく」子どもは増えたのか、見え方が変ったのか
3人の先生のニュースレターは、こどもの発達や障害、広く保育や教育に関して気になるニュースや最新の研究を取り上げます。川崎・奥村・荻布のそれぞれの専門性を活かしながら子どもの発達支援や教育・社会福祉のエビデンスを深堀し、経験値をエビデンスとして皆様の生活に還元しようとする試みです。根拠の乏しいハウツーとは一線を画して、間違いの少ない情報を届けたい人に届けていくことを目標にしています。

「勉強ができない子ども」は増えたのでしょうか。
この問いは、最近の学校や子どもをめぐる議論の中で、何度も形を変えて出てきます。
「通常学級の中で支援を必要とする子どもが増えた」
「学習についていけない子どもが増えた」
「昔よりも、教室で求められることが複雑になった。」
「そして、その結果として、学校生活そのものにしんどさを抱える子どもも見えやすくなってきた」
どれも、現場感覚としては無視できない言葉です。実際、文部科学省は2022年に、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒について全国調査を行っています。この調査では、小・中学校において「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒の割合は8.8%でした。そのうち、「学習面で著しい困難を示す」とされた児童生徒は6.5%、「行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒は4.7%です。少なくともこの調査上は、通常の学級の中で最も多く見えている困難は、行動面よりも学習面の困難であることがわかります(文部科学省,2022)。
ただし、ここで最初に確認しておきたいことがあります。
この調査は、限局性学習症、いわゆる医学診断としてのSLDの子どもが何%いるかを示したものではありません。文部科学省も、この調査は学級担任等の回答に基づくものであり、医師による診断や発達障害の専門家チームによる判断によるものではない、と明記しています。したがって、この数字は「発達障害のある児童生徒数の割合」ではなく、「特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合」として読む必要があります(文部科学省,2022)。
ここが、とても大事です。「学習面で著しい困難を示す」という結果の中には、限局性学習症だけが含まれているわけではありません(さらに自己代償で頑張り倒している子どもの場合、含まれていない事もあるわけです)。
読む、書く、計算する、推論することそのものに困難がある子どももいます。注意の配分や実行機能の問題が、結果として学習面に現れている子どももいます。対人関係の不安、教室環境との相性、生活リズム、家庭状況、これまでの失敗経験、学校で求められる学び方とのミスマッチが、学習困難として見えている場合もあります。
つまり、学習困難は「一つの原因」から生じるものではありません。それは、子どもの認知特性や発達特性だけでなく、課題の出され方、授業の進み方、評価の仕方、教室の環境、家庭や地域の状況、そしてその時代に学校が子どもへ求めるものとの関係の中で現れてきます。
だからこそ、学習困難の問題、あるいは不登校といった特定の現象・状態像を問題として扱うときに、数字だけを見て「子どもが変わった」と結論づけるのは危ういのです。
変化したのは、子どもの実態だけではありません。学校が子どもに求める力も変わっています。授業で求められる処理の速さも変わっています。読み書きだけでなく、発表、協働、自己調整、ICT活用、探究的な学びなど、学習場面で求められる行動も複雑になっています。それにもかかわらず、大人の側は、自分たちが子どものころに必要とされた学び方を、そのまま今の子どもに求めてしまうことがあります。