視力だけではない? 学びを支える“見る力”の視点①

「視力はいいんだけど…」という言葉を、子どもに関わる現場でよく耳にします。視力はA判定、すらすら読めるのに見落としが多い、書くのは上手なのに板書を写すときに場所を見失う— こうした困りごとは、視力だけでは捉えきれない、“見る力“の質に関わる問題かもしれません。この記事では、視力と視機能の違いやその発達過程、運動とのつながりについて考え、子どもの見えにくさに気づき、支える視点を探ります。(奥村)
川﨑・奥村・荻布 2025.06.30
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視力だけではない?シリーズの第一弾です。今回は、視力と眼球運動・目と手の協応に注目して整理し、視力そのものの育ちだけではわからない見る力全体の発達に迫ります。

人間の視力は優れている?

他の動物と比較して、人間の視力は細部を識別する能力においてトップクラスだといわれています。ウマは優れた広い視野があるものの視力は0.5~0.7、イヌやネコは0.2〜0.5程度です。タカやワシのような空を飛びながら獲物を探す鳥は視力が4.0~5.0あり、空中から小さな獲物を見つけることができますが、人間の視力はおよそ1.0~2.0です(Land, 2012)。遠くを見る力ではタカやワシに及ばないものの、細かい形や模様を見分ける力では、多くの動物より優れています。この高い視力は、細かなものを操作する力として、たとえば道具の製作、火起こし、編み物や彫刻など、精密な手作業を支え、人類の進化を後押ししてきました。

さらに視力は、社会性の発達にも深く関わっています。他者の表情や視線を読み取る力といった非言語的なやりとりが、視覚を通じて可能になり、言語を通したやりとりと相互に補いながら、人とのつながりを築く大切な土台になっています。そして何より、文字を読み書きする文化を築くことができたのも、人間の優れた視力があってこそだと言われています。もちろん、人類の進化を視力だけで説明することはできません。ですが、“見る力”は私たちの文化や学びを支えてきた大きな基盤のひとつであることは確かです。

“見る力”は、人類の進化の中で文化や社会性を支えてきたように、子ども一人ひとりの発達においても、学びや生活の土台となっています。今日は、この「視力のその先」にある“見る力の発達”について、その仕組みや意味を一緒にひもといていきたいと思います。

視力とは…

視力とは、「どれだけ細かいものが見えるか」を示す数値で、主にランドルト環(Cのような記号)を使った検査で調べられます。ただし、視力は生まれた時から備わっているものではなく、発達とともに徐々に育っていくものです。視力が育つとともに、どんな“見る活動”ができるようになるのか、時期ごとに表1にまとめてみました。


表1. 月齢別の視力の発達と見る活動の例

表1. 月齢別の視力の発達と見る活動の例

最終的に4~6歳くらいで大人と同じくらい視力になるといわれています。そしてその過程では、視力以外の見る力、社会性や運動の発達とも深く関わっています。ここからは、そんな“見る力”の育ちと眼球運動について、もう少し詳しく見ていきましょう。

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