日本語ではディスレクシアは少ないの? ― 書き言葉のしくみの違いから考える

10月のディスレクシア月間にあわせ、今月第一弾は「日本語ではディスレクシアは少ないの?」という疑問について考えてみたいと思います。「英語は綴りがあるから難しい?」「日本語には漢字があるから難しい?」。こうした疑問をひも解いていくと、同じ「読む」という活動でも、使っている文字によって求められることが違うとわかります。その視点で、読みの発達やつまずき、アセスメントと支援について考えます。(奥村)
川﨑・奥村・荻布 2026.10.03
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3人の先生のニュースレターは、こどもの発達や障害、広く保育や教育に関して気になるニュースや最新の研究を取り上げます。川崎・奥村・荻布のそれぞれの専門性を活かしながら子どもの発達支援や教育・社会福祉のエビデンスを深堀し、経験値をエビデンスとして皆様の生活に還元しようとする試みです。根拠の乏しいハウツーとは一線を画して、間違いの少ない情報を届けたい人に届けていくことを目標にしています。

10月はディスレクシアへの理解を深める月間です。そこで今月は、川崎先生、荻布先生とともに、ディスレクシアについて3回にわたって取り上げます。第1回となる今回は、「日本語ではディスレクシアは少ないの?」という疑問から、日本語と英語の書き言葉のしくみの違い、そしてそこから見えてくる読みの特徴について考えてみたいと思います。国際ディスレクシア協会(International Dyslexia Association:IDA)が2025年に改訂した定義では、ディスレクシアの特徴として、単語の読みや綴りの正確さ、速さ、あるいはその両方の困難が挙げられています。そして、その現れ方は、言語の「書字体系」によって異なることが明記されています(International Dyslexia Association, 2025)。書字体系とは、話し言葉をどのような文字や表記のルールで表すかという、いわば「書き言葉のしくみ」です。

日本語と英語では、書き言葉のしくみがどう違う?

「学校でサッカーをした。」

この短い文の中にも、漢字、ひらがな、カタカナという異なる種類の文字が使われています。私たちは普段、その違いをあまり意識せずに読んでいますが、仮名と漢字では、文字が音や意味と結びつくしくみが大きく異なります。また、日本語と英語を比べてみても、文字と音の結びつき方には違いがあります。こうした書き言葉の違いを考える手がかりになるのが、「透明性」と「粒性」という二つの視点です(Wydell & Butterworth, 1999; Ziegler & Goswami, 2005)。図1は、いくつかの書き言葉の特徴を、この「透明性」と「粒性」の二つの軸で大まかに整理したものです。例えば、日本語の仮名と英語は図の中でも異なる位置にありますし、同じ日本語でも仮名と漢字は異なる位置にあります。ここから、この二つの視点についてもう少し詳しく見ていきましょう。

図1:書字体系における透明性と粒性の違い

図1:書字体系における透明性と粒性の違い

文字から読み方を予測しやすいか:透明性

まず、ひらがなの「か」を見てみましょう。「か」は、基本的にはどの言葉の中に入っていても「か」と読みます。文字を見れば、ほとんどの場合そのまま音を予測できます。一方、英語では、同じ文字や文字の組み合わせでも、単語によって読み方が変わることがあります。たとえば、teamとheadにはどちらも「ea」が含まれていますが、同じようには読みません。このような、文字と音の対応がどのくらい一貫していて、文字から読み方を予測しやすいかを「透明性」といいます。図1の横軸を見ると、この違いがイメージしやすくなります。日本語の仮名は、文字を見れば読み方を予測しやすいため、透明性が高い側にあります。一方、英語は文字と読み方の関係が複雑なため、透明性が低い側にあります。イタリア語やスペイン語、ドイツ語など、同じアルファベットを使う言語の中でも、その程度には違いがあります(Ziegler & Goswami, 2005)。

どのくらいの大きさの音を文字に対応させるか:粒性

もう一つの視点は、文字と音をどのくらいの大きさのまとまりで結びつけるかを「粒性」といいます。といいます。例えば、ひらがなの「か」「きゃ」は、一拍分の音のまとまりを表しています。この一拍を、専門的には「モーラ」と呼びます。図1では、今度は縦軸を見ると粒性の違いがわかります。日本語の仮名は、基本的に一文字が拍(モーラ)という比較的大きな音のまとまりに対応します。一方、英語などのアルファベット言語では、より細かな「音素」という単位と文字との対応が重要になります。例えば、「か」という一拍の音も、さらに細かくみると子音の /k/ と母音の /a/ に分けることができます。英語では、こうした細かな音の単位を意識して文字と結びつけることが、読みを学ぶうえで重要になります。つまり、仮名と英語では、読みを学ぶときに基本となる“音のまとまりの大きさ”が違うのです(Ziegler & Goswami, 2005; Inoue et al., 2017)。

じゃあ、漢字は?

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